数学に登場する無限大には様々な種類があります.例えば,極限における発散を表す無限大,超実数の無限大,無限集合の濃度としての無限大などが挙げられます.極限の文脈では,無限大は数ではなく形式的な記号だとされることが多いですが,集合論や代数学では「数」,すなわち演算の対象として扱われることもあります.本記事では無限大の種類をいくつか紹介します.
1 極限における無限大
実数列\((a_n)\)と実数\(\alpha\)に対し, \[\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha\] は\(\varepsilon\)–\(N\)論法により \[\forall \varepsilon>0,\exists N\in\mathbb{N}\text{ s.t. }\forall n\in\mathbb{N}\;[n\geq N\Rightarrow |a_n-\alpha|<\varepsilon]\] と定義されます.ここで,「無限大」を直接定義することなく極限が定義されている点に注意が必要です.つまり,\(\varepsilon\)–\(N\)論法に基づく現代的な解析学では,極限を指示する記号としての\(\infty\)自体は何らかの数学的な実体を表しているわけではありません.
正の無限大への発散 \[\lim_{n\to\infty}a_n=\infty\] は \[\forall L>0, \exists N\in\mathbb{N}\text{ s.t. }\forall n\in\mathbb{N}\;[n\geq N\Rightarrow a_n>L]\] と表すことができ,こちらも値としての「無限大」を定義することなく数列の発散が定義されます.
2 拡張実数
拡張実数は別名「(アフィン)拡大実数」とも言い,集合としては実数に正と負の無限大を付け加えたもの\(\mathbb{R}\cup\{\infty,-\infty\}\)です.拡張実数では無限大を数学的な実体をもつものとして扱います.演算については,通常の実数の四則演算を次のように拡張します. \[\begin{align}
{2}
a + \infty = (+\infty) + a &= +\infty &\quad (a \neq -\infty) \\
a – \infty = (-\infty) + a &= -\infty &\quad (a \neq +\infty) \\
a \cdot (\pm\infty) = (\pm\infty) \cdot a &= \pm\infty &\quad (a >0) \\
a \cdot (\pm\infty) = (\pm\infty) \cdot a &= \mp\infty &\quad (a <0) \\
\frac{a}{\pm\infty} &= 0 &\quad (a \in \mathbb{R}) \\
\frac{\pm\infty}{a} &= \pm\infty &\quad (a \in \mathbb{R}_{+}) \\
\frac{\pm\infty}{a} &= \mp\infty &\quad (a \in \mathbb{R}_{-})
\end{align}\] 拡張実数については前回の記事「零除算を許す数の体系」で紹介しています.
3 無限遠点
リーマン球面や実射影直線における無限遠点は幾何学的な対象であると同時に,四則演算の中では \[\frac{1}{\infty}=0,\quad \infty+a=\infty\] のように直感的に無限に大きい値と解釈できる形で扱われます.無限遠点も前回の記事「零除算を許す数の体系」で紹介しています.
4 超準実数
より多くの無限大を含む体系として超準実数(超実数)があります.拡張実数では無限大は正と負の2つだけでしたが,超準実数の体系には様々な大きさの無限大があり,更に無限小も含まれます.
超準実数の一般的な構成法は,数列の同値類として構成する方法です.有理数全体から実数全体を構成するためにコーシー列の同値類を考えるのと同様の考え方です.超準実数の場合にはコーシー列だけでなく,通常の意味で発散するような数列も含めてあらゆる数列を考えます.
具体的には,超フィルターという\(\mathbb{N}\)の部分集合からなる集合を考え,2つの数列\((a_n)\), \((b_n)\)が一致するような番号\(n\)全体のなす集合がその超フィルターに属するときに\((a_n)\)と\((b_n)\)を同一視します.
Definition 1. 自然数全体の集合\(\mathbb{N}\)の部分集合からなる集合\(\mathcal{F}\)が(\(\mathbb{N}\)上の)フィルターであるとは,次の条件が成り立つことである.
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\(\mathcal{F}\neq\emptyset\);
-
\(\emptyset\notin\mathcal{F}\);
-
\(A,B\in\mathcal{F}\Rightarrow A\cap B\in\mathcal{F}\);
-
\(A\in\mathcal{F},A\subset B\subset\mathbb{N}\Rightarrow B\in \mathcal{F}\).
更に,\(\mathbb{N}\)上のフィルター\(\mathcal{F}\)がより大きいフィルターに拡張できないとき,すなわち包含関係に関して極大であるとき,\(\mathcal{F}\)を極大フィルターまたは超フィルターであるという.
選択公理を仮定すると,任意のフィルターに対し,それを含む超フィルターが存在します.補有限集合全体からなるフィルター \[\{S\subset \mathbb{N}\mid \mathbb{N}\setminus S\text{は有限集合}\}\] をフレシェ・フィルターと言いますが,これを含む超フィルター\(\mathcal{F}\)を一つとり,固定することで,次のように超準実数が構成できます.
Definition 2. \(\mathcal{F}\)をフレシェ・フィルターを含む超フィルターとする.実数列\((a_n),(b_n)\)に対し,同値関係\(\sim\)を \[(a_n)\sim (b_n)\Longleftrightarrow \{n\in\mathbb{N}\mid a_n=b_n\}\in\mathcal{F}\] により定める.このとき,この同値関係による商\(\mathbb{R}^\mathbb{N}/\sim\)を超準実数の集合\({^\ast}\mathbb{R}\)とする.
実数\(a\)に対し,定数数列\((a,a,\ldots)\)の属する同値類を\(a\)と同一視することで,\(a\in{^\ast}\mathbb{R}\)と考えることができます.よって,超準実数は実数を拡張した体系になります.四則演算は代表元の項ごとの演算で定義し,これはwell-definedになります.例えば,\((c_n)\)の属する同値類を\([(c_n)]\)と表すことにすると,\([(a_n)]+[(b_n)]=[(a_n+b_n)]\)です.順序については \[[(a_n)]\leq [(b_n)]\Longleftrightarrow \{n\in\mathbb{N}\mid a_n\leq b_n\}\in\mathcal{F}\] で定義し,これも代表元の取り方に依存せずwell-definedになります.これらの演算や順序は通常の実数のものの拡張になっています.
\(a_n\to \infty\) (\(n\to\infty\))なる数列\((a_n)\)の定める超準実数は上記の順序に関してどんな実数よりも大きくなります.これが無限大超準実数です.無限大超準実数は一つではなく,例えば無限大に正の数を足すとより大きい無限大が作れます.
更に無限小も超準実数の枠組みで扱うことができます.全ての自然数\(n\)に対して\(a_n>0\)だが,\(a_n\to 0\) (\(n\to\infty\))が成り立つような数列\((a_n)\)の定める超準実数は0よりは大きいのにどんな正の実数よりも小さいという意味で無限小になります.例えば,\(\varepsilon=[(1/n)]\)は無限小超準実数で,無限大超準実数\(\omega=[(n)]\)の逆数になります.
超準実数の体系\({^\ast}\mathbb{R}\)は実数の体系とよく似ていて,適当な言語の一階述語論理式で表される性質が\(\mathbb{R}\)で成立していれば\({^\ast}\mathbb{R}\)でも成立します.これを移行原理と言います.
5 超限順序数・基数
自然数を拡張した概念として順序数というのがあります.順序数の体系は無限大を非常にたくさん含みますが,超準実数とは違って実数の拡張ではなく,有理数や無限小に対応する順序数は存在しません.
Definition 3. 集合\(\alpha\)が順序数であるとは,次の条件が成り立つことを言う.
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\(\forall x,y\in\alpha; x\in y\text{または}x=y \text{または}y\in x\);
-
\(x\in y\in \alpha\Rightarrow x\in\alpha\)
また,順序数を帰属関係\(\in\)によって整列された推移的集合と定義することもでき,任意の整列集合はその順序型と呼ばれる一意的な順序数に順序として\(\in\)を入れたものと順序同型になります.慣習的に\(0=\emptyset,1=\{0\}=\{\emptyset\},2=1\cup\{1\}=\{\emptyset,\{\emptyset\}\},\ldots,n+1=n\cup\{n\}\)として自然数も順序数と見做します.このようにすると,自然数全体の集合\(\omega=\{0,1,2,\ldots\}\)も順序数になります.順序数\(\alpha,\beta\)に対して,\(\alpha\in\beta\)が成り立つとき,\(\beta\)は\(\alpha\)より大きいと言い,\(\alpha<\beta\)と表します.\(\omega\)より小さい順序数を有限順序数,\(\omega\)以上の順序数を超限順序数または無限順序数と言います.1を足すことでより大きな無限大を作ることができ,順序数\(\alpha\)に対し,\(\alpha+1=\alpha\cup\{\alpha\}\)を後続順序数と言います.このように順序数の「一つ後ろ」は常に考えることができますが,「一つ前」を考えることはできるとは限らず,どんな順序数の後続順序数にもなっていない順序数を極限順序数と言い,極限順序数\(\alpha\)に対しては \[\alpha=\sup\{\kappa\mid \kappa<\alpha\}\] が成立します.例えば,\(\omega\)は極限順序数です.順序数全体\(\mathrm{ON}\)は集合論的な意味で「大きすぎる」ため集合にはならず,真クラス(proper class)と呼ばれる集まりになります.
集合\(A\)との間に全単射が存在するような最小の順序数を\(A\)の濃度と言い,\(|A|\)と表します.また,集合の濃度となり得るような順序数,すなわち集合としての濃度が自分自身に一致するような順序数のことを基数と言います.例えば,有限順序数や\(\omega\)は基数ですが,\(\omega+1\)は濃度が\(\omega\)と等しいため,基数ではありません.同じ濃度をもつ順序数は非常にたくさんあり,例えば,イプシロン・ノート\(\varepsilon_0\)と呼ばれる\(\alpha=\omega^\alpha\)を満たす最小の順序数\(\alpha\)は一見非常に大きいように見えますが,濃度としてはまだ可算です.順序数の和や積,冪も自然数の演算の拡張として定義されますが,整列集合の構造を反映しているため,また別に定義される濃度(基数)の和や積,冪とは一致しない点に注意が必要です.例えば,濃度の和は可換ですが,順序数の通常の和(\(\alpha\)の後ろに\(\beta\)をくっつけて得られる整列集合を\(\alpha+\beta\)とする)は\(1+\omega=\omega\neq\omega+1\)となるため非可換です(ただし,Hessenberg和と呼ばれる可換な加法も存在します).
基数は多種多様であり,様々な性質をもつ基数があります.例えば,\((\mathrm{ON},\in)\)から無限基数全体への順序同型\(\aleph_{\cdot}\)(つまり,\(n+1\)番目に小さい無限基数を\(\aleph_{n}\)とし,その添え字を順序数に拡張したもの)とある順序数\(\alpha\)に対し,\(\alpha_{\alpha+1}\)の形に書ける基数を後続基数と言い,そうでないものを極限基数と言います.また,順序数\(\kappa\)に対し, \[\mathrm{cf}(\kappa)\coloneqq \min\{|S|\mid \text{$S\subset\kappa$は整列集合$(\kappa,\in)$の非有界部分集合}\}\] を\(\kappa\)の共終数と言い,共終数が自分自身に一致する無限基数を正則基数,そうでない無限基数を特異基数と言います.後続基数や\(\aleph_0\)は正則基数ですが,\(\mathrm{cf}(\aleph_\omega)=\aleph_0\neq\aleph_\omega\)なので,\(\aleph_\omega\)は特異基数です.
共終数にまつわる性質以外にも様々な基数の性質が考えられ,ZFC公理系からはそのような性質をもつ基数が存在することを示せないような無限基数の性質も考えられます.そのような性質を巨大基数公理と言います.例えば,「\(\kappa\)未満の任意の基数\(\lambda\)に対し,その冪集合の濃度が\(2^\lambda<\kappa\)を満たすような正則基数\(\kappa\)」を強到達不能基数と言い,巨大基数公理の一つとして知られます.何故「巨大」というネーミングかというと,巨大基数公理を満たす無限基数が存在すれば「非常に大きい」(少なくともアレフ関数\(\alpha\mapsto\aleph_\alpha\)の最小の不動点よりは大きい)と考えられているためです.アレフ関数の最小の不動点は \[\sup\{\aleph_0,\aleph_{\aleph_0}, \aleph_{\aleph_{\aleph_0}}, \ldots\}\] であり,これ自体も非常に大きい無限大です.
6 デデキント無限
特に選択公理を含まない弱い集合論で問題となる概念に「デデキント無限」があります.
Definition 4. 集合\(A\)がデデキント無限集合であるとは,\(A\)のある真部分集合と\(A\)の間に全単射が存在することである.
集合\(A\)がデデキント無限集合であることはZF公理系上で以下のような条件(どの一つを選んでも良い)とも同値です.
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全射ではないが単射であるような\(A\)から\(A\)自身への写像が存在する.
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自然数全体から\(A\)への単射が存在する.
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\(A\)は可算無限部分集合をもつ.
一方で,通常の無限集合は自然数を用いて次のように定義されます.
Definition 5. 集合\(A\)が無限集合であるとは,どんな自然数\(n\)に対しても\(\{0,1,\ldots,n-1\}\)と\(A\)との間に全単射が存在しないことを言う.
可算選択公理を仮定すれば(実際にはそれより少し弱い公理を仮定すれば)無限集合であることとデデキント無限集合であることが同値であることが証明できます.しかし,選択公理のないZF公理系では「デデキント無限集合ならば無限集合」しか証明できず,逆は証明できないことが知られています.「デデキント無限集合ならば無限集合」が選択公理なしで明らかに成り立つことはその対偶「有限集合ならばデデキント無限集合でない」を考えればすぐ分かります.可算選択公理を用いるとその逆「無限集合ならばデデキント無限集合」が言えることは次のように証明できます.
Proof. \(A\)を無限集合とする.任意の非負整数\(n\)に対し,相異なる\(n+1\)個の\(A\)の元の組全体のなす集合\(A_n\)を考える.仮定より\(A_n\neq\emptyset\) (\(\forall n\))だから,可算選択公理より,選択関数 \[f:\omega\to\coprod_{n<\omega}A_n;n\mapsto (a_{n,0},a_{n,1},\ldots,a_{n,n})\in A_n\] が存在する.このとき,\(S\coloneqq\{a_{n,i}\mid i\leq n<\omega\}\)は\(A\)の可算無限部分集合である.\(s_1,s_2,\ldots\)を\(S\)の元の数え上げとする.\(h:A\to A\setminus\{s_1\}\)を\(A\setminus S\)上では恒等写像,\(S\)上では\(s_i\mapsto s_{i+1}\)となるようにとると,\(h\)は全単射である.よって,\(A\)はデデキント無限集合である. ◻
7 超現実数(surreal number)
超現実数の体系は,全ての順序数を埋め込むことができるほど広大で,多種多様な無限大を含み,それらの逆数となるような無限小も含みます.
一つの超現実数\(x\)は,実体としては超現実数からなる集合2つの対の同値類です.一気に全ての超現実数を構成するのではなく,超限帰納法により「世代」と呼ばれるステップごとに定義されます.
まず第0世代の超現実数は\(0=\{\emptyset |\emptyset \}\)のみです.任意の順序数\(\mathcal{N}\)に対し,第\(\mathcal{N}\)世代の超現実数全体\(S_\mathcal{N}\)は,それより前の世代の超現実数全体\(\bigcup_{i<\mathcal{N}}S_i\)から以下の構成規則に従って生成されます.(既に得られている)超現実数からなる空でもよい集合\(L,R\)のペア\(\{L\mid R\}\)を形式と言い,以下の順序\(\leq\)に関して\(R\)の各元が\(L\)のどの元よりも真に大きいとき,この形式は数的である(数値形式である)と言います.更に\(x\sim y\Longleftrightarrow x\leq y,y\leq x\)なる同値関係\(\sim\)に関する数値形式の同値類を超現実数とします:
Definition 6. \(x=\{X_L\mid X_R\},y= \{Y_L\mid Y_R\}\)に対し,\(x\leq y\)であるとは,\(y\leq x_L\)となる\(x_L\in X_L\)が存在せず,かつ,\(y_R\leq x\)となる\(y_R\in Y_R\)が存在しないこととする.超現実数と数値形式および超現実数同士の大小比較は,その超現実数の代表元となる数値形式にこの規則を適用して行う.
例えば,第1世代の超現実数は\(-1=[\{\emptyset\mid 0\}]\), \(0=[\{\emptyset\mid\emptyset\}]\), \(1=[\{0\mid \emptyset\}]\)の3つ,第2世代の超現実数は
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\(-2=[\{\emptyset\mid -1\}]= [\{\emptyset\mid -1,0\}]= [\{\emptyset\mid -1,0,1\}]\),
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\(-1=[\{\emptyset \mid 0\}] =[\{\emptyset \mid 0,1\}]\),
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\(-1/2=[\{-1 \mid 0\}]=[\{-1 \mid 0,1\}]\),
-
\(0=[\{\emptyset\mid\emptyset\}]=[\{-1\mid \emptyset\}]=[\{\emptyset \mid 1\}]=[\{-1 \mid 1\}]\),
-
\(1/2=[\{0 \mid 1\}]=[\{-1,0\mid 1\}]\),
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\(1=[\{0 \mid\emptyset\}] =[\{-1,0 \mid \emptyset\}]\),
-
\(2=[\{1 \mid \emptyset\}]= [\{0,1\mid \emptyset \}]= [\{-1,0,1\mid \emptyset\}]\),
の7個です.集合の記号は省略しています.実数との対応(ラベル付け)においては数値形式の左と右の中間の数と解釈しています.これを見ると一見2進有理数しか構成できないように思えるかもしれませんが,超限回のステップを使うと実数や無限大,無限小も構成できます.例えば, \[3=[\{2\mid\emptyset\}],\quad \frac{1}{3}=\left[\left\{0,\frac{1}{4},\frac{5}{16},\ldots\mid \frac{1}{2},\frac{3}{8},\ldots\right\}\right]\] \[\omega=[\{1,2,3,\ldots\mid\emptyset\}],\quad \frac{1}{\omega}= \left[\left\{0\mid \frac{1}{2},\frac{1}{4},\frac{1}{8},\ldots\right\}\right]\] です.ここで,左と右はそれぞれ\(1/3\)に下と上から収束する2進有理数列です.更に,数値形式の左右の集合は非可算無限集合でも良いので,超準実数の範疇では到達できないような物凄く小さな無限小や物凄く大きな無限大も超現実数として構成できます.任意の順序数\(\alpha\)に対し,\(\alpha\)に当たる超現実数が第\(\alpha\)世代で初めて現れます.四則演算も実数の演算の拡張として定義され,超現実数全体は体を真クラスに拡張したものになります.更に超準実数では定義できなかった\(\omega-1=[\{1,2,\ldots\mid\omega\}]\)も第\(\omega+1\)世代の超現実数として構成できます.
任意の順序体を超現実数全体\(\mathbf{No}\)に埋め込むことができるという意味で超現実数は究極的に大きな順序体のようなものですが,残念ながら実数体(アルキメデス的完備順序体)とは違って超現実数は上限性質をもたない,すなわち空でない上に有界な「部分集合」(正確には部分クラス)が上限や下限をもつとは限らないという意味で完備ではありません.しかし,デデキント切断と同様に間隙を付け加えることで完備化\(\mathbf{No}^\mathfrak{D}\)を考えることができ,線形連続体の真クラスバージョンに拡張できます.この間隙の追加による完備化は,(順序数全体のなす真クラスで添え字付けられた)コーシー列による完備化よりも広くなります.
更に超現実数\(a,b\)に対して\(a+bi\)を考えることで,「超現複素数」を考えることもできます.超現複素数全体は,有理数体に順序数全体のなす真クラスで添え字付けられた超越元の族を添加した「体」(の真クラスバージョン)の代数閉包に同型になります.