単調でない関数による置換積分
佐久間です.今回は「ルベーグ=スティルチェス積分の置換積分」に引き続き,置換積分の公式を扱っていきたいと思います.前回見た,\(f,g\)に関するかなり弱い仮定の下で成立する置換積分の式 \[\int_a^b f(g(t))g'(t)dt=\int_{g(a)}^{g(b)}f(x)dx\] について,「\(g\)が単調でないときはこの公式は使えない」という誤解がよくあります.しかし,実際にはそのようなことはなく,\(g\)が単調でなくても成立します.一体,何故そのような誤解が生じるのでしょうか.本記事では,誤解の原因と思われる「似て非なるケース」をいくつかご紹介します.
1 リーマン積分の場合の復習
では,最も簡単なリーマン積分の場合の定理を振り返りましょう.
Theorem 1. \(a,b\)を実数とし,\(a\leq b\)とする.積分をリーマン積分と解釈し,\([a,b]\)上の実数値関数\(g\)が\(C^1\)級,\(g([a,b])\)上の実数値関数\(f\)が連続としたとき,以下の式が成り立つ. \[\int_a^b f(g(t))g'(t)dt=\int_{g(a)}^{g(b)}f(x)dx.\]
Proof. \(f\)の連続性より\(f\)の原始関数\(F\)が存在し,\(F'(x)=f(x)\)である.合成関数の微分より,\((F(g(t)))'=f(g(t))g'(t)\). よって, \[\int_a^b f(g(t))g'(t)dt=F(g(b))-F(g(a))=\int_{g(a)}^{g(b)}f(x)dx.\]
ここで,\(g\)が単調である必要はありません.\(g\)が単調でないと使えないという誤解がよくありますが,後述するようにそれはある意味「逆」のパターンと混同しているからでしょう.実際,\(g\)が単調なときに成り立つのであれば,\(g\)が単調であるような区間に積分区間を分割して足し合わせれば同じ結果が得られるはずです.また,現に上のようにしてそもそも単調性を使わずに微分積分学の基本定理から証明できています.
2 ダメなケース
前回の記事で,置換積分の公式はかなり広い関数のクラスで成立することを確かめました.それでは,何故「\(g\)が単調でないときはこの公式は使えない」という誤解が生まれてしまうのでしょうか? それはもちろん,一見置換積分が上手くいかないように見えるケースがあるからです.
そのようなケースはあえて冒頭の定理1の設定で言うと,\(g\)がそもそも関数にならない(強いて言うなら多価関数になる)ときに相当します.具体例を見てみましょう.
2.1 変数の役割が逆のケース
以下の状況で\(x^2=t\), \(2xdx=dt\)による「置換積分」をしようとすると失敗します. \[\int_{-1}^{1}(x^4+x^6)dx\neq \int_{1}^{1}(t^2+t^3)\cdot \frac{1}{2x}dt.\] 右辺は積分区間がたまたま1点だから積分値0と解釈したくなりますが,被積分関数の分母に含まれる\(x\)の値が\(t=1\)で\(x=1\)なのか\(x=-1\)なのか定まらないため,正確に言えばそもそもwell-definedではありません.
正しい置換積分は,以下のようになります. \[\begin{align*}
\int_{-1}^{1}(x^4+x^6)dx &=\int_{-1}^{0}(x^4+x^6)dx+\int_{0}^{1}(x^4+x^6)dx \\.
&= \int_{1}^{0}(t^2+t^3)\cdot \frac{1}{-2\sqrt{t}}dt+\int_{0}^{1}(t^2+t^3)\cdot \frac{1}{2\sqrt{t}}dt \\
&= \int_{0}^{1}(t^{3/2}+t^{5/2})dt=\frac{24}{35}
\end{align*}\] これは直接計算の結果 \[\displaystyle \int_{-1}^{1}(x^4+x^6)dx=\left[\frac{x^5}{5}+\frac{x^3}{3}\right]_{-1}^{1}=\frac{24}{35}\] と確かに一致しています.これは\(t\)が\(x\)に関して単調になる(\(x\mapsto t\)が単調になる)区間に分割しているとも言えますが,\(t\mapsto x\)が一価となるように分割しているとも言えます.定理1における\(g\)は\(t\mapsto x\)という対応を表していたので,これは「\(g\)が単調ではない」ということではなく「\(g\)がwell-definedですらない」という状況です.\(t\)と\(x\)の役割を逆だと思ってしまうと,「\(g\)が単調ではないときは置換積分しちゃいけないんだ」と誤解するというわけです.
では,同じ\(x^2=t\)という置換でも,最初から微分の形が接触しているケースはどうでしょうか. \[\int_{-1}^{1}(x^4+x^6)x\,dx= \int_{1}^{1}(t^2+t^3)\cdot \frac{1}{2}dt.\] こちらは正しいです.偶然等号が成り立つだけでなく,置換積分の観点から必然的に成立します.何故かというと,(どちらを「新しい変数」と見るかに数学的な必然性はないのであくまで便宜的な呼び方ですが)定理1を「積分変数\(x\)から新しい積分変数\(t\)への置換積分の公式」と呼ぶことにすると,文字\(t\)と\(x\)の役割が逆になっただけで,\(g(x)=x^2\)を通した「積分変数\(t\)から新しい積分変数\(x\)への置換積分」と思えるからです.ここで,\(g\)が単調でなく\(g\)に逆関数が存在しないことは問題になりません.何故なら,下端として\(x=1\)をとるか\(x=-1\)をとるかで結果は(必然的に)変わらないからです.
この話はややこしく,「え?\(t\)と\(x\)の役割を逆にしていいならさっきの話は何だったの?」と思うかもしれませんが,「\(g\)がwell-definedですらない」のケースでは\(t\)と\(x\)を逆に見ても置換積分の公式と合わなくなります.実際に破綻するのは,陽的な表式(ちゃんと一価に定まる関数)で置換される側の変数と置換後の変数が定理1とは逆の関係にあり,しかも置換式をその陽的な表式の引数について解くことができないが故に定理1における置換の形には書き換えられない場合です.
要するに,\(\displaystyle\int_{x_1}^{x_2} f(x)dx\)において,\(x=g(t)\)と置換する際は単調性を気にしなくても大丈夫ですが,逆に\(t=h(x)\)と置換するのが要注意だということです.後者は要注意とは言っても常にダメなわけではありません.例えば,この\(h\)が単調であれば,\(g=h^{-1}\)が存在し,\(t=h(x)\)を\(x\)について解くことで定理1に帰着できるから問題ありません.また,\(f\)がたまたまある滑らかな関数\(\psi\)を用いて\(f(x)=\psi (h(x))h'(x)\)と書けるような関数形であった場合も,\(x,t\)の変数の役割を入れ替えればちょうど定理1の状況に当てはまるから問題ありません.一方,そうでない場合は,\(h\)が単調となるような\(x\)についての区間ごとに積分を分割し,\(h\)の逆関数の表式を場合分けするなどの回避処理が必要になります.
2.2 向きを考慮しない単なる可測集合上の場合
定理1で積分する範囲を「\(g(a)\)から\(g(b)\)」ではなく,向きを考慮しない単なる可測集合\(g([a,b])\)に置き換えた場合は,例えば\(g\)が減少して増加して元の値に戻った場合に打ち消し合わないことがあるため,実際に単調性の仮定が必要になります.例えば,先程と同じ例では\(g([-1,1])=[0,1]\neq [g(-1),g(1)]\)であるため,これがそのまま単調でない場合の反例になります.
ヤコビアンに絶対値が付いている多変数の変数変換で単射性の仮定が必要になるのも同じ理由です.
2.3 特異点を跨ぐ場合
特異点が原因で置換積分が失敗するケースもあります.以下のように,\(x=\tan\theta\)と置換して,\(0\leq x\leq 1\)が\(0\leq \theta\leq 5\pi/4\)に対応すると考えると失敗します. \[\begin{align*}
\int_{0}^{1}\frac{1}{(1+x^2)^2}dx &\neq \int_{0}^{5\pi/4}\frac{1}{(1+\tan^2\theta)^2}\cdot\frac{1}{\cos^2 \theta}d\theta\\
&= \int_{0}^{5\pi/4}\cos^2 \theta\, d\theta=\frac{1}{4}+\frac{5\pi}{8}
\end{align*}\] これは単調でないことや逆関数が存在しないことが問題なのではなく,\(g(\theta)=\tan\theta\)が区間内で発散することが原因です.これを単調でないせいだと勘違いすると冒頭で述べたような誤解が生じます.
真性不連続点や跳躍不連続点を含む場合はいくら区間を分割しても問題は解決しません.この場合は仕方なく積分区間を変更して次のようにしましょう. \[\begin{align*}
\int_{0}^{1}\frac{1}{(1+x^2)^2}dx &= \int_{0}^{\pi/4}\frac{1}{(1+\tan^2\theta)^2}\cdot\frac{1}{\cos^2 \theta}d\theta\\
&= \int_{0}^{\pi/4}\cos^2 \theta\, d\theta=\frac{1}{4}+\frac{\pi}{8}
\end{align*}\]
2.4 単なる計算ミス
次は置換\(x=\sin\theta\)による正しい置換積分です. \[\begin{align*}
\int_{0}^{1/2}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx &= \int_{0}^{\pi/6}\frac{1}{\sqrt{1-\sin^2\theta}}\cos\theta\, d\theta =\int_0^{\pi/6}d\theta =\frac{\pi}{6}.
\end{align*}\] \(0\leq x\leq 1/2\)が\(0\leq \theta\leq 5\pi/6\)に対応すると考えても問題はありませんが,意外と次のような計算ミスが起こりやすいです. \[\begin{align*}
\int_{0}^{1/2}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx &\overset{?}{=}& \int_{0}^{5\pi/6}\frac{1}{\sqrt{1-\sin^2\theta}}\cos\theta\, d\theta =\int_0^{5\pi/6}d\theta =\frac{5\pi}{6}.
\end{align*}\] これは単調でない置換をしたことや特異点\(x=1\)を通過する区間を選んだことによる副作用と誤認されることがありますが,実際には単なる符号の考慮漏れです.正しくは, \[\begin{align*}
\int_{0}^{1/2}\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx &= \int_{0}^{5\pi/6}\frac{1}{\sqrt{1-\sin^2\theta}}\cos\theta\, d\theta \\
&=\int_0^{5\pi/6}\frac{\cos\theta}{|\cos \theta|}d\theta =\frac{\pi}{2}-\frac{\pi}{3}=\frac{\pi}{6}.
\end{align*}\]
2.5 定義域の問題
以下のような定理が存在し,このステートメントでは実際に\(\varphi\)が単射であるという仮定を外すと積分区間の局所化が成り立ちません.
Theorem 2 (, Cor. 5.23). \((X,\mathcal{F},\mu)\)を測度空間,\((Y,\mathcal{G})\)を可測空間,\(\varphi:X\to Y\)を単射な可測関数,\(f\in L^1(Y,\varphi_{*}\mu)\)とすると,\(f\circ \varphi\in L^1(X,\mu)\)であり,\[\int_{A} f\circ \varphi\, d\mu=\int_{\varphi(A)} f\, d(\varphi_{*}\mu)\quad (\forall A\in \mathcal{F}).\]
しかし,これは\(\varphi(A)\)が向きや多重度を考慮しない単なる可測集合で,さらに\(\varphi\)が\(A\)の外部でも定義されていることに起因する現象で,冒頭の定理とは定式化が違います.測度の押し出しも含めて最初から全てを\(A\)に制限して考えれば単射性は不要で,押し出しを通した変数変換公式に帰着します.
9 Shapiro, J. (2025). Measure theory. Princeton University, MAT425 Lecture Notes. Retrieved from https://web.math.princeton.edu/~js129/PDFs/teaching/MAT425_spring_2025/MAT425_Lecture_Notes.pdf